
石狩浜で風を受けるアニマリス・オルディス
札幌芸術の森美術館で開催中の「テオ・ヤンセン展」連動企画で、『風を動力源として砂浜を疾駆する「ストランドビースト」を石狩浜で見ようという』イベントがあったので、ゼミ生達と見てきました。
ストランドビーストは、テオ・ヤンセンさんが制作する「砂浜の生命体」という意味を持った彫刻作品です。ボディはPVC製のチューブで造形され、風を受けて有機的に歩行する様は、生物を思わせるほど艶めかしいものです。テオ・ヤンセンさんは、デルフト工科大学で物理学を専攻した後、画家に転身。コンピュータのスクリーン上に蠕く線状の人口生命体や絵を描くマシーンの制作などを経て、ストランドビーストは、1990年から現在まで大小いくつもの種類が制作されてきました。これらのシリーズは、風を受けて生み出される円運動を物理工学の基盤にしたオリジナルのリンク機構を用いることで、楕円形の軌跡に変換し歩行の動作を実現します。近年のビーストは、これまでのリンク機構とは異なる構造で、初期に制作された蠕く線状生命体のコンピュータアニメーション作品『Vermiculus Artramentum』を彷彿とする動きで砂浜を疾駆する個体も誕生しています。
炎天下の中、石狩浜に到着すると、北海道特有のテントを張って海水浴を楽しむ方々で賑わっていました。特設会場には、小型ストランドビースト「アニマリス・オルディス」が、帆を張った状態で風を待っていました。あいにく風速8メートル強の持続的な風が吹かなかったため、浜辺を縦横無尽に歩行する姿は見られませんでしたが、時折吹く強めの風を受け、2度ほど動いて会場はざわめきました。
芸術と科学は、極度の専門性によって分化していきましたが、イヌイットは、小さな彫刻を作ったりもするし、イグルーのような技術を使ったりもする、私もそのような存在であるとご本人が語っておられるように、ビーストは、極度に専門化してしまった分野の溝を埋め、芸術と科学が、対自然・対生命と向かい合う手立ての一つであることを改めて教えてくれるような頼もしい存在のようにも感じました。暑い砂浜に立ち続けるビーストは足の裏暑くないのかな、と思いつつ、短い北海道の暑い夏を楽しんできました。